Interview

幼少期の感動が活動のルーツ|貪欲に探究してくなかで広がっていった視野

身近なところで見つけた「美」を作品にしているEmiriさん。パステルや水彩で、ぼやけて霞んだ、色と光に重きを置いた柔らかい雰囲気の作品を描かれています。

どのような想いや経験から、今のこだわりに辿り着いたのか。Emiriさんにお話を伺いました。

本の挿絵に感動した幼少期

ー絵を描き始めるようになったきっかけを教えてください。

絵を描くことは昔から好きだったんですが、特に影響を強く受けたなと思っているのは、母と祖母ですね。元々家族も絵を描くことが好きで、プロではないけど趣味の割にすごく上手なんです。幼少期に祖母の家に遊びに行った時は、庭にある花や植物を水彩でスケッチしていたのを、よく見ていました。

明確に絵を描きたいと思ったきっかけは、本の挿絵です。大人が読むような本だったのですが、空にある入道雲みたいな雲の中から馬に乗った人が降りてくるような、幻想的なシーンを写実的に描いた絵を見た時に、すごく感動して。

こういう風に描ける人と描けない人の差はなんだろうと、子供ながらに思いましたし、自分はこういう絵を描ける人になりたい、と純粋に思ったのが描くきっかけになりました。

ー感動が原動力になっているんですね。

そうですね、そこから画家に対する強い憧れを抱くようになりましたし、本当に尊敬していました。

それもあって、美術の授業はいつも一生懸命に取り組んでいましたね。でも、絵画教室に通ったり美術部に入ったりすることは一度もなくて。実際に絵を描き始めるようになったのは、高校時代なんです。

友人からのプレゼントをきっかけに気づいたこと

ー高校生になって、趣味として本格的に勉強しようと思われたのはなぜですか?

独学でどこまでいけるかちょっと試してみたい気持ちもありましたし、やっぱり絵が本当に好きだという気持ちがあったからですね。なので、遊びみたいな感じもありつつ、技法書などを買ったり借りたりして、趣味としてと、本格的に勉強してみたいという両方の感情で描いていました。

友人がプレゼントで画材をくれたことがあって、水彩から油彩まで、もうありとあらゆる画材を箱に詰めてくれたんですよね。それに加えて、母が持っていたパステルや色鉛筆も使っていたので、多分日本画以外の画材にはほとんど触れることが出来たと思います。

ーとても素敵なプレゼントですね。様々な画材を試してみて、いかがでしたか?

実は、その時までは「油絵こそ最高の画材」と思い込んでいたんです。なので、プレゼントに油絵のセットが入っていた時はとても嬉しくて、天にも昇る心地でした。でも実際に使ってみたら、自分が求めているものではないと感じてしまって。

結局、1枚も仕上げることなく、それ以降全く触れなくなってしまいました(笑) そこから画材探しの旅が始まりましたね。

工芸品のように作り込むのも好きなんですが、限られた人生の中で、たとえ小さい作品だとしてもたくさん残していきたくて。思いついた時に、ぱっと開いてぱっと描けるもの、どこにでも持って行けていつでも一緒にいられる「パートナーのような画材」が良いなと。

ー絵に対する姿勢に1番合っていたのがパステル画だったんですね。

1番最初に触った画材が、母が若い頃に使っていたパステルだったこともあるんですが、触った時の柔らかさやパステルの色彩の高さにも惹かれていました。

違う画材も使ってみたくて、アクリルや水彩でも描いてみたのですが、1番しっくりきたのはパステルなのかもしれないな、と今も続けていますね。

あとは、ファンタジーな絵だけでなく、昔ながらの古典的な絵画のような絵も描けるというのを画集などを見て知って。それでまたパステルに対しての考え方が変わってもっと好きになりました。

考え方が大きく変わった一つの言葉

ー知れば知るほど、新たな魅力に気づけるって素敵ですね。

そうですね。以前は、有名な観光地のような景色を、重厚感があって写真のように描くことが素晴らしいことだと考えていて。

だけど、私の好きなある画家の方がおっしゃった「身近なところに美や絵を描くモチーフはある」という言葉が、すごく心に刺さったんですよね。実際に、これもこれも描けるよ、と周りをカメラで撮りながら歩かれるんですが、なんてことない風景が本当に美しい絵になっていく様子を目の当たりにして、考え方が180度変わりました。

ーEmiriさんにとって、とても大きな出会いですね。

大きな出会いでした。それをきっかけに、いわゆる「美しい綺麗な風景」はないかもしれないけれど、一度家の周りを散歩してみようと思って外に出てみたんです。

家の周りは田舎で、田畑が多くすごく開放感があるような場所なんですよね。その日は曇りだったんですが、大きな空に広がっている雲の隙間から、太陽の光が差し込んで明るく光っていて。平野なので特に綺麗に見えて、これが身近にある美なんだと気づきました。

ー最初に惹かれた挿絵の状況にも「空と雲」という点で似ていますね。

そうなんです。子供の時のあの感動を思い出して「これだ!」と思いました。まるで自分の心情を表しているような空が広がっていて。その光景を描いたのが「光と影」という作品で、私にとって特別な作品です。

このことがきっかけで空をテーマにした作品が多くなりました。作り込まれてないんだけれども、そのままの姿で美しくて、誰でも見られる人類共通の財産というか。美しい観光地のようなところには住めないとしても、上を見ればこんなに美しい空が、身の回りには草花や生き物たちなど、喜びや感動に私たちは囲まれているんだよ、という想いも込めています。

作品名:光と影

気軽な気持ちで見れる絵を描きたい

ー描き方のこだわりが定まったのはその後からでしょうか?

そうですね、様々な画集をよく見ていたんですが、そのなかで「写実的」か「色彩的」かの二つに分けられるのかなって自分の中で考えていました。どっちに重きを置いてるかでだいぶ違うんだなっていうのが何となく分かって。絵を見る機会が増えて、いろんなジャンルがあっていいんだと思うようになりました。

だから最初の頃の雲は、かなり写真に近く描いているなと自分で思うんですけれども、もっとリラックスしてゆるく描いても良いんじゃないかな、とも。

作品名:黄昏

ー試行錯誤の日々ですね。

あとは、新しい技法を探したいという探究心みたいなのもありますね。例えば、水彩絵の具をキャンバス生地に使ってみるとか、パステルをパステル用紙ではなく、色画用紙や布、木工作業やDIYに使うようなサンドペーパーに描いてみるとか。
※サンドペーパー:木材や金属を研磨する際に使用する、紙などのシートに研磨剤が接着されているもの

自分の作品を比べると、テイストや画材が違っていたりするんですが、それはそれで面白いかなと、色々変えてみたり混ぜてみたりして楽しんでいます。

ー特に影響を受けた絵はありますか?

クリムトの絵ですね。人物画や模様っていうイメージだったんですが、調べていくと風景画とかも描いていて。とても霞んだ、とろけるような風景画があるんです。優しくぼやけていて、そこだけ時間がゆっくり流れているかのように見えて、見れば見るほど緊張が解けていき心が穏やかになっていくのを感じました。

今は昔と比べて、科学も発展し便利な世の中になりましたけど、ストレスや緊張も多い時代かなという印象を受けています。誰もが休息を必要としていると。たとえ今より不便に感じても、昔のように時がゆったり流れる、穏やかな、そんな世界を一瞬でもいいから味わいたいと私は思ってしまうんです。まるで古いカメラで撮った、ぼやけた写真のような世界に。

だから身近な美を、少し曖昧で柔らかく霞んだ、そんな雰囲気の世界にしてしまいます。見た人が癒しや安心感、安らぎを感じる、そんな絵を描きたいです。

ー今後新しく挑戦していきたいことはありますか?

実際にみた風景だけじゃなくて、そこから想像を膨らませて描くというのも、やってみたいなと思いますね。何点かすでに描いてみてはいるんですが、自分の想像力や感じたもので、実際に行ってみたいと思えるような風景を一から作れたらと。

実際に想像から描いた作品(作品名:呼吸)

ーやはり幼少期に見た挿絵が、Emiriさんのルーツになっていらっしゃるんですね。

そうですね。やっぱり、空想のものでこんなに説得力があるんだ、っていうのに感動したので。見たものをそのまま描くだけでもなかなか大変なのに、想像したものを「実際にありそう」と感じさせ、見た人に感動を与えるってすごいと思います。

今もいくつかイメージはあるんですが、頭の中で思いついたものを描くっていうのは、結構難しいものなんだなと、試行錯誤しています。そういうシリーズが描けるように、今後は挑戦していきたいですね。

Emiri

Emiri

絵を描くことが好きな家族に囲まれながら育ち、高校生の頃には趣味として本格的に絵の勉強を始める。その後とある画家の言葉をきっかけに、身近な美をテーマとして描くように。 パステル画をメインに、写実的に描くのではなく曖昧さを大切にした、あえてゆったりと時間が流れていく昔の古き良き時代を感じられるような作品を制作している。

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