Interview

ゆっくり想像を巡らせられる作品を描きたい|1枚のハガキが繋いだ縁

日常で出会えた綺麗な一瞬を切り取るyukieさん。水彩で儚くも力強い、見る人の心に安らぎを届けられるような作品を描かれています。
どのような想いやこだわりから、現在の作風になったのか。yukieさんにお話を伺いました。

画家への入り口はテレビ番組の油絵講座

ー絵を描き始めるようになったきっかけを教えてください。

特別なきっかけというのはなくて、絵を描くことは昔から好きでした。幼少期に、父が会社からコピー用紙の裏紙を束で持って帰ってきてくれていたので、いつでも絵を描ける環境だったんですよね。

ペンと紙さえあれば絵は描けるので、環境も相まって描くことに抵抗がなく育った部分はあります。

あとは、幼稚園の頃なんですが、みんなに配られていた自由画帳に描いた絵を先生から褒められた記憶もあって。子供だから褒められると嬉しくて、「もっと絵を描こう」という気持ちになったのがきっかけだったのかなと思います。

ー幼少期からずっと絵は身近な存在だったんですね。

そうですね。子供の頃はずっと「小学校の先生になりたい」という夢があったんですが、中学生になっていざ進路選択となった時に、美術系に進もうかなという思いも少しあって。

ただ、親にそのことを伝えたら「絵」と「先生」が結びついて、「美術の先生」という風に受け取ったらしく、賛成してもらえませんでした。

当時、自分自身も世間をあまり知らない時期なので、「先生」といったら「美術の先生」という流れに考えがいってしまったんですよね。「小学校の先生」という夢を捨てきれず、「美術関係の道に進む」という夢は途絶えました。

ー本格的に絵を描き始めたタイミングはいつ頃だったのでしょうか?

中学2〜3年の頃、恐らくNHKで油絵講座のような番組をやっていて、それをたまたま見た時にドキドキしたというか。先生がキャンバスに筆でどんどん描いていくのを、ずっと見ているのがものすごく心地良くて、「大人になったら油絵をやりたい」と強く決心したのは、今でも覚えています。

ただ、「絵を習いたい」とはずっと思っていたものの、なかなか油絵教室って気軽に行ける雰囲気じゃなくて(笑)知識もないので、すごく躊躇していたんですよね。

大人になり、残業の多い会社で働いていたんですが、25歳の結婚を機に転職をしまして。ある程度夜の時間がちゃんと確保できる仕事になったので、そこから、週に1回「この勤務状況なら油絵教室に通えるな」っていう目処がつき、通い始めました。

金曜夜の講座を受けて、講座でやったことを土日休みの間に自分でまた描いてみたりと、金曜日を毎週楽しみにしたりしながら打ち込んでいましたね。

当時の油絵作品

ー素敵な時間ですね。それまでは独学で描いていらっしゃったんですか?

それまでは特に打ち込んでいた時期はないですし、美術系の勉強もしていない、そういう知識も全くない、普通の人でした(笑)

油絵教室に通い始めた時に、油絵セットを初めて買って。そこからいろんな画材の名前や種類を一生懸命覚えたり、筆を揃えたりと、本当にゼロからのスタートでした。

教室で学び出してから、絵の深さに気付くことも出来ましたね。いろんな技法を駆使して仕上げていくという面で深い、っていうのもあるんですけど、描いていると自分の精神状態が絵に表れたりするので、作品は、ただ色をのせた結果というだけでなく、様々な「深い意味」みたいなものがあるなっていうのはすごく思いました。

嬉しいときは明るい絵になるし、悩んでる時に描きたいイメージが湧かないまま描き始めると、迷ってるっていうのが絵に出ちゃって、まとまりのない絵になります。

ーその油彩教室にはずっと通われていたのでしょうか。

結婚後子供が産まれてからは日常的に忙しくなり、結局教室はやめてしまいましたね。

油絵は、制作にすごく時間がかかって画材を準備するのも手間だし、家事育児に忙しく、やっと空いた時間にいざ描こうと思った時には、パレットに出した絵の具も乾いて固まってしまっていたり。パレットを綺麗にしたり、ラップを被せて乾かないようにしたりと色々工夫もしましたが、忙しい毎日の中制作を続けることはとってもできなくて。

たまに時間を見つけて、子供が生まれた後も何枚かは描いたんですが、油絵教室に毎週通うのは難しくなって、という感じです。

ただ、もう油絵は描けないから、使っていた画材はしまおうと思ってたんですよ。だけど、「イーゼルは、絶対自分の目に見える場所へ置いとかなきゃいけない」って、不思議なんですけど心の中にあったので、目につくところにおいてありました。

復興支援で出会った水彩画

ーその後、なぜ水彩画を描くようになられたのでしょうか?

東日本大震災の復興支援で、水彩画家の永山裕子先生に出会ったのがきっかけですね。

以前通っていた絵画教室は画材屋さんがやっていたものだったんですが、そのお店へ無料で絵画のデモンストレーションをしに永山先生が来てくれる、という案内のハガキが届きました。

当時の私は、永山先生のことを全然知らなくて。水彩画のことも分からないし、それまでは興味もなかったんですが、案内ハガキに描かれていた絵を見て「素敵だな」と思ったので、参加したいなと。

実際に届いたデモンストレーションへの案内ハガキ

多分デモンストレーションって、カメラで撮影できるタイミングも限られているような、すごく静かな中で、緊張した雰囲気で描くものだと思うんですよね。だから、本当は子連れとかも良くなかったんでしょうけど、どうしても子供を預けられる人もいなかったので、3人の子連れで行きました。

その時はものすごい人だかりで、子供が「見えない」って大きな声で言ったのに対して、永山先生が「良いよ、前においで」って言ってくださったんですよ。

子供たちだけ、私からは見えない1番前に入れてもらって、特等席で見学させてもらいました。子供たちが迷惑かけてないかとハラハラしていたのですが、子供たちにも先生のすごさが伝わったんでしょうね、1時間以上興味津々で見ていたようです。

今となっては本当に異例のことだったと思っているんですが、永山先生の素敵なお人柄に触れて、より水彩画に魅力を感じましたね。

それから、水彩画だったら、パレットと紙さえあれば描けるんですよ。筆も、別に洗い忘れてもまた使えるし、水彩絵の具は、出しっぱなしにして固まっちゃっても水を含ませればまた使えるから、子育て中でも簡単に描けるというのもあって、水彩画に転向しました。

ー永山先生との出会いが大きな転機となったんですね。

そうですね。コロナ禍になって、永山先生がオンラインの講座を始められたのですが、今私も習っているんですよ。そこでたくさん教えていただいているので、すごく勉強になっていますし、影響も大きいです。

震災の時にデモンストレーションを見たっていうのが、多分人生のなかで大きな転機というか、ターニングポイントだったんだろうなと思いますね。

何年後かにもう一度仙台でデモンストレーションしてくださった時にも参加したんですけど、子供たちのことを覚えていてくださって。それも一つ、感動した経験です。

絵を描く時は自分のフィルターと向き合う時間

ー絵を描く時のこだわりはありますか?

写真みたいに描くのは好きではなくて、「自分の絵を見てくれる人が、絵を見ながら、ゆっくり想像を巡らせたり、いろんなことに思いを馳せたりするような絵を描きたい」という風に思っています。

写真だと全部はっきり映ってしまっていて、それが「全て」なんですけど、絵ってモチーフを見て自分のフィルターを通して、画面に落とし込んでいくんですよね。そのフィルターのかけ方によって、表現は無限にあって。

モチーフから感じることを自分の中で組み立てて、「こういう技法でこう落とし込んでいこう」「こういう感じにしたいな」と変換する作業と、出来上がった作品がぴったり一致すると、ものすごい達成感があるんです。そういうところが絵の魅力なのかな、という風には思いますね。

逆に、その自分が「こう描きたい」っていうイメージ通りに仕上がらなくて、すごくイライラしたり落ち込んだりするのもあるんですけど。それはそれで一つの経験だし、結局モチーフを見て落とし込んでいくフィルター、つまり自分と「向かい合わなきゃいけない時間」だと思うんですよね。

「描く」ということは、そのフィルターがすごく綺麗な時も汚い時もあって、心の状態がすごく出るんです。だから、「自分」とか「人生」とか、ちょっと大げさなんですけど、そういうのと向き合ってるような時間だなっていうのは感じますね。

ー自分が見ている世界を表現していらっしゃるんですね。

多分皆さん、「素敵」と思ったものを写真に撮って、それを見てみると「あれ、私が見てたのと違う」「こんな風に見えてなかった」ってなることが結構経験としてあると思うんですね。

だから一つのモチーフを、例えば10人の人が見たら多分10人違った見方をしてると思っています。「私はこういう風に見えたのよ」というのを、自由に絵にしていけるっていうのは素敵だなと。

自分から出たその絵の表現を、見た人から「私もこれ分かる」って共感してもらえたら、結局自分と同じ想いを持っている人がいるんだな、と嬉しいじゃないですか。そういうのも良いなと。

日常に潜む「綺麗な一瞬」を描きとめる

ー絵のモチーフはどのように決められていますか?

「良い」と思う素敵なモチーフに出会ったときに尽きますね。例えば、台所に置いたコップに夕日が当たって綺麗とか、日常の中に紛れていて見過ごしてしまうような、綺麗なところや面白いところを見たときに、「これを描きたい」って。

作品名:My wish

あとは、「すごいね」とか、一生懸命根詰めて描いて「すごく時間がかかってる絵だね」とは思われたくないんですよね。昔はすごくゴージャスな絵や見応えのある絵を描きたいと思っていましたが、今はそういうことに囚われないようになった気がします。

細部まで描き込まれた絵も素敵なんですけど、見る方も見ていて、「疲れる」っていうと語弊があるんですが、そういう「多分手間がかかってるんだろうな」と受け取られるような絵は描きたくなくて。

描いていないことまでも、想像出来るように描きたいなって思っています。だからこそ、「写真みたいに全部は描きたくない」というところに繋がると思います。

「私はこれを描きたいんだ」って思うところはしっかり描くんですが、そうじゃないところはあえて描かないことで、何かを感じさせるような。そういう描き方に変わってきましたね。

ー今後挑戦していきたいことがあれば教えてください。

そうですね、もっとたくさん描く時間をとりたいですし、本当にこれからも、日常の綺麗をたくさん切り取ってたくさん描いて届けたいと思っています。

日本の方って、あんまり「絵を買って飾る」という方が多くないと思うんですよね。せいぜいカレンダーを飾るぐらいでしょうか。多分学校の美術とかの教育でも、すごく力入れてるわけじゃないというか。あまり「絵を飾る文化」じゃない感じがするんです。

音楽を聴いたり動画を観たりとかって、皆さん普通にやるじゃないですか。そのレベルで接してもらえるような、「音楽を聴いて元気になった」と同じように、「絵を見たらちょっと心が落ち着いた」って思ってもらえるような絵を描きたいですね。

「ちょっとここに置いてみよう」って、カレンダーでも掛けるように気軽に手にとってもらえる絵、見てもらいやすい絵を描きたいですね。絵に興味を持ってもらうきっかけとか、そういうのになれば良いなと思います。

yukie

yukie

幼少期から絵を描くことが好きで、テレビ番組をきっかけに油絵に興味を持つ。25歳から油絵教室に通い始め、その後永山裕子先生との出会いから水彩画へ転向。日常の中で出会えた綺麗な一瞬を切り取り、自身のフィルターを通して、見る人の心に安らぎを届けられるような作品を制作している。

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