Interview

何十年も愛される作品作りをしたい|求められる喜びから得た向上心

自然光の差し込む屋根裏部屋で、細部の質感や陰影までこだわった作品を描くkamekoenさん。対象の見た目だけでなく、その背景やストーリーまで表現することに注力しています。

一度は描く手を止めたところから、どのような経験を経て活動を再開したのか。kamekoenさんにお話を伺いました。

成功体験が大きな糧に

ー絵が好きだなと感じられたのはいつ頃からですか?

幼稚園の頃ですかね。周りの子よりも表情みたいなのが描けているなとか、「こう描けば怒った顔になるな」みたいな応用性が少しあるのかなと感じていました。

小学校の中学年ぐらいになってくると、図工の成績の良さから、上手い下手は分からないけど「得意なんだろうな」と。高学年になってくると、自分よりこの人は上手いなとか、色々分かるようになってきて、上手くなりたいなと思うようになりました。

あとは、図工の授業で作った粘土細工の握り拳をクラスメイトたちに褒めてもらった記憶があって。少し優れているのかもしれない、とちょっと調子に載っているところがあったと思います(笑)

ー幼少期の成功体験って自信に繋がりやすいですよね。

ただ一方で、これで食っていくのはダメだろうなというのが、10代半ばあたりになってくると大体分かってきたんですよね。好きなことを仕事にして、義務化すると嫌いになるかもしれないというのもあって。なので、美術関係の学校にも行かないし、本格的な仕事にはしないと考えました。

ー絵はずっと描き続けていられたんですか?

高校生の間は離れていましたね。大学に入ってクラブ活動をやろうかなと思った時に、絵を描いていたことを思い出したので美術部に。その時油絵を初めて描いたんですが、たまたまラッキーなことに、最初の作品が売れたんですよ。

LPレコードと同額ぐらいの値段という、当時の学生にとっては結構な大金で。自分が最初に制作したものをお金出してまで求めていただけるというのは、思いがけない喜びでしたね。それをきっかけにより上手くなりたいと思いましたし、求められるんだったら期待を裏切っちゃいけないとかを考えるようになって。

デッサンの練習を徹底的にしたり、パパッと時間内に描けるようにしたり、もちろん立体感やディテールを全部しっかり捉えられなきゃいけないなと。なので、勉強というか訓練のつもりでたくさん絵を描きました。

社会人としての経験が活きた制作活動

ー嬉しい出来事が、kamekoenさんの糧になったんですね。

そうですね。学生時代はクラブ活動にも積極的に参加して、寸暇を惜しみながら制作に取り組む日々を過ごしていて。

ただ、社会人になるタイミングで、絵を制作することを止めました。学生の頃のように絵に向かうことは難しいだろうし、中途半端になるくらいなら退職後に再開しようと。

ー全力でやっていたことを中断するのは、大きな決断でしたね。

趣味も仕事も徹底して突き詰めて取り組んだ方が、新たな視界が開けたり面白いことに巡り会える確率が上がるように思うんですよね。そこから40年以上、制作を休止していました。

再開のきっかけは会社の飲み会

ー再開されたきっかけは何だったのでしょうか?

ある時の会社の飲み会で、職場の人に絵のことを話したのがきっかけですね。学生の頃に描いていた話をしていたら、見せてほしいと言ってもらったので写真を送ったんです。そしたらその絵を欲しいと言ってもらえて、結局何人か職場で集まった人に絵を渡しました。

学生時代に描かれた作品

ー意外なところからでしたね。

もしかして自分の絵は通用するのかな、という気持ちになりましたね。その時には仕事の仕方も変わっていたので、土日に時間も取れるだろうからと、再開しました。

学生の頃は描くのが遅くて、何週間もかけて同じ絵に向き合っていたんですが、今なら社会人として身につけた合理性が活きて、もっと早く描けるんじゃないかとも思ったんですよね。で、描いてみたらちゃんと結構描けて。集中力も上がって、自分的にはかなり20代から進化したんじゃないかなと感じています。

絵の制作を再開する前に家を建てていたのですが、屋根裏部屋が制作場所にちょうど良いんですよね。自然光で描きたいので基本明かりは使わず日中に描いていて、どうしても納期が近いものは、演色性の高い明かりを使っています。
※演色性:光源によって色の見え方が変わる性質。演色性が高いほど、太陽光の下で見る場合に近い色で見える。

ー制作環境にもこだわられているんですね。

もうやるなら徹底的にやろうっていう。作品の耐久性はもちろん、普通に飾るにはあまり関係ないかもしれないけれども、耐光性も低いものはあまり使用しないとか。あとは、絵や画材にとって良くない行為を知ったら、その後はやらないようにしています。

というのも、何十年後までも後悔させたくないっていう気持ちがあって。長く家に飾っていただけるぐらい大切にしてもらえたら嬉しいなと思いますし、それに値するものを描こうって。

観察から生まれるリアリティさ

ー油絵でキャンバスに描くことをメインにされたのはいつからでしょうか?

学生になってからですね。初めて油絵の道具を手にしたのが18歳か19歳の時で、すぐに乾かない油絵の自由度が自分に合っているなと思いました。あとは、キャンバスだと色をのせてから指を使ってグラデーションを作ったり、強度がある分筆でゴシゴシ擦ったりも出来るのも良いですね。

ただ、擦って絵を描く分すぐ筆を買い換えないといけないので、キャンバスの次に筆にお金がかかっていて(笑)太い筆も使うんですが、基本的に細い0号の筆で少しずつガリガリ描いていっています。

ネコ科の動物とかは特にすごく減りますね。動物も観察していくと、哺乳類の被毛と鳥類の羽毛はやっぱ違うんだな、ここをこう描くとその感じが分かるかなっていう発見があったり、描き上げた時の面白さがあったりして、楽しいんです。

作品名:香りを見つめる視線

ー絵のモチーフはどのように選ばれているんでしょうか?

自分が綺麗だと思うものですね。見た目ももちろんですが、生態を調べていく上でその背景やストーリーを知ると、より対象が愛おしく感じるんです。なので、まずは見た目とかこの動きが良いなっていうところから入るんですが、最終的には背景まで全部ひっくるめた上で絵に表現したいと思いながら描いています。

ー色々観察していくうえで、たくさんの気付きがあると楽しいですね。

そうですね、とても楽しいです。動物とか、綺麗な建造物や自然の風景などが好きなので、緻密に観察するようにしたり、1回写真をプリントアウトしたものを見ながら描いたりしていて。ベタ塗りするのが好きではないので、ちょっとした陰影の違いをいかに発見して描くか、というのも意識しています。

学生の時に最初に目指したのは、写真のようなスーパーリアリズムな絵ですね。立体感が好きなので、実際には存在しないんだけども「何か盛り上がっているかな?」と思えるような、いかに二次元のところに三次元を表現するかというのを意識しています。今目指してるのは写真を超える絵ですね。

ー写真を超える絵というと、どのような絵なのでしょうか。

川瀬巴水や歌川広重が好きなんですけども、そっくり描くんじゃなくて、写真を超える表現があると思うんですよね。省略するところは省略することによって、見る方としてはすごく分かりやすくなっているような、そういう風景画を描きたいと思っています。

人物画だと、バーニー・フュークスが目指したい憧れの人ですね。ジョン・F・ケネディの肖像画なんかも素晴らしくて、ジャクリーン夫人に「この絵はうちの人よりもうちの人だ」っていう風に言わしめたと言われているんですよ。写真を超えているっていうのは、例えばああいうことなんだろうなと、尊敬しています。

作品名:湖上の古城

ー今後新しく挑戦してみたいことはありますか?

正直、今はまだ思い当たらないです(笑)賞を取ろうとすることも私はあまり考えていなくて、絵って人によって全然違うものを描いていて、趣味嗜好というか好みの問題だと思うんですよね。興味のある人ない人もいれば、良いという人も悪いという人もいて。

なので、最終的には「自分」と「自分の絵を良いと言ってくれる人」の1対1の関係であれば良いかなと。自分の絵を求めてくれる人がいれば、その人のために描きたいですし、オーダーとかじゃない時は、自分のために、自分の好きなものを出していきながら描いていきたいと思います。

kamekoen

kamekoen

大学時代から油絵に触れ、初めて絵が売れた経験から本格的に制作を開始。社会人になるタイミングで一度制作活動から離れるも、40年以上の時を経て活動を再開。 「写真を超える絵」を目指しながら、細部の質感を表現することにこだわった作品を得意とする。

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