Interview

自分の色で描いていく|「絵空事」のような作品が良い

油彩で山の絵を中心に描いているSAKAEさん。雄大な山の姿を、自身の思った色で描きあげています。

どのような経験や想いから作品を描かれているのか。SAKAEさんにお話を伺いました。

学ぶのに遅すぎることはない

ー絵を描き始められたきっかけを教えてください。

うちの父親も絵描きでアトリエがあったんですが、父親が亡くなった後そのアトリエを遊ばせておくのは勿体ないなと思って、絵を描き始めました。それまでは「父親の邪魔をしたくないな」と思って、アトリエに入ったことも、父親に絵を教えてもらうこともなかったです。絵に興味はあったし、絵を描くことは好きな方だったんですけど。

子供の頃は、父親からスケッチブックをもらっていたので、ちゃんと描きたいもののテーマとかモチーフを決めて描いていました。普段遊んでいるところの風景とか、乗り物が好きだったので乗り物を描いたりとか。落書き的な描き方じゃなくて、ちゃんと真面目に描いていましたね。

色鉛筆やクレヨンとか、高学年になったら父親から「これで描いてみな」って水彩絵の具をもらって描いたりもしていました。父親は当時小学校の美術の先生をしていたので、色んな画材メーカーの見本をもらっていたんですよね。そういうので画材を譲り受けていたので、その点は不自由していなかったです。

大人になって会社に勤めるようになってからは、全く絵は描いていなかったですね。父親が亡くなるまでの30年ぐらいは絵筆を一切握っていなかったんですが、「描きたいな」という気持ちは持っていました。そこから、基礎がしっかりないと描けないなと思って、ユザワヤ芸術学院というカルチャースクールに、51歳から20年以上通いました。

ーすごいですね。油絵はスクールで学ばれたんでしょうか?

そうですね、スクールに通い始めて最初の1年は、鉛筆デッサンや石膏とかの基礎から学んで、その後F6号とかの小さいキャンバスから油絵を始めました。だんだんキャンバスのサイズが大きくなって、今やっと展覧会とかに出せる50号を描けるようになりましたね。

カルチャースクールで初期の頃に描かれた作品(作品名:キジの置物)

油彩より水彩の方が、一発勝負なので難しいんですよね。白い部分は画用紙に絵の具をのせないようにするんですけど、はみ出ちゃったら描き直せなくてダメになるし。描き上げるまでの時間は、油彩よりかからないですけどね。

アクリルも手早く描かないと、絵の具自体が乾燥しちゃうじゃないですか。そういうのもあって、自分の感覚的には油彩が一番優しくて描きやすいし、描き直しもしやすいので、油彩で描き続けています。

「好き」がきっかけで新しい世界に

ー基本的に描かれるモチーフは山がメインですよね。

カルチャースクールに通っていた頃は、生物とか違う絵も描いていたんですが、だんだん山の絵専門になっていきましたね。日本山岳画協会というところの会員になってからは、特に山の絵しか描いていないです。

ずっと山が好きだったので、山岳画協会に入会する前から山の絵自体は描いていたんですよね。それで協会が開催している定例展を観に行っていたんですが、会員の方と話した時に、「山の絵描いているなら持ってきてみて」と言われて。持って行って見せたら、入会の許可が出たので、その流れで入会に至りました。

この山岳画協会って会員2名の推薦がないと入れないんですが、実はうちの父親も存命の時は入会していたので、ちょっと甘い面もあったんじゃないかと思っています(笑)。

協会の会員たちで、年に2回ぐらい泊まりがけで山に行くんですよね。長野とか山梨とか、ちょっと遠いと新潟の方とか。それをきっかけに、山を専門で描くようになりました。

仕事をしながら、休みの時にアトリエで描いたり、協会の会員さんたちと山に行ったりして描くような日々でした。

実際に協会の方たちと山に行って描かれた作品

「ここの山を描きたいな」と思ったら、そこに行って自分の目で直接見るんですよね。その場で描くには時間が足りないので、写真を撮って自宅で描いています。

ただ、3〜4年前にパーキンソン症候群にかかってしまったので、山にいけなくなったんですよね。なので、パソコンで見て描くようになったんですが、写真だと立体感を出すのが難しくて。これまでは実際に実物を見ていたので、全然勝手が違いますね。

ー絵のモチーフはどうやって決められるんですか?

まず「これを描きたいな」という山を決めるところからですね。写真集とかを見て、「良いな」と思う山の姿があったら、その山をモチーフに描く感じです。

今はもう現場にいけない体になってしまったんですが、山の絵って大体、一つ山を隔てたぐらいの距離で描くんですよね。そうすると、良い構図が見つかります。

山のモチーフにも好みがあるんですよ。岩山とかそういうのが好きなので、緑の茂った山はあんまり描かないんですよね。富士山も、綺麗にまとまりすぎているので描かなくて。整っていないというか、特徴のある山が好きです。

海の絵は、波とかが捉えられなくて描くのが難しいんですよね。なので、真っ平な砂浜とかも描かないんですが、リアス式海岸とか、岩場が良い感じのところとか、切り立った崖が良いところとかは描きますね。

基礎を固めてから自分の色を出す

ー絵を描くときのこだわりはありますか?

あまり暗い雰囲気にしないようにしていますね。油彩で絵を描くときって、ちょっと明度や彩度を落として重厚な感じで描く人が多いと思うんですけど、明るい色が好きなので、自分の絵は割と「明るい感じに仕上げよう」という意識はあります。

だから、空は大体コバルトブルー基調にしています。「絵空事」ってよく言うと思うんですけど、自分の絵はそれで良いと思っていて。リアルさにこだわらず自分の思った感じで描くのが、自分の作品の持ち味だと思っています。

作品名:アマダブラム峰

自分の考えですけど、写真みたいに描くなら写真撮っちゃった方が手早いやって思っちゃって(笑)。

絵は「そのキャンバスに個性を出さなきゃいけない」「自分のタッチで、自分の思った色を使って描き上げていく」という考え方ですね。

ー影響を受けているアーティストはいますか?

ゴッホのひまわりとかは、絵のタッチが面白いなと思って模写していました。模写って、構図の勉強としても大事なんですよね。

日本人画家だと、熊谷守一さんが好きです。最後の方の絵のタッチがすごく好きで、展示会で4号ほどの小さい作品を見て、震えるほど感動しましたね。

基本的に、若い頃は風景にしろ人物にしろ、しっかりとした写実的なものを模写することで基礎を作って、それから自分の絵を描いていくのが良いと思いますね。

あとは、父親に絵を教えてもらうということはなかったものの、小さい頃から見ていたので、「同じような絵を描いてもしょうがない」と思いながら、何となく絵は似ちゃいます。

ー今後やってみたいことはありますか?

自分が描いている絵で、納得することってあんまりないんですよね。「ここら辺で…」ってどっかで筆を止めて、「これでいいや」って完成させるので、そのレベルをもうちょい引き上げていきたいなというのはあります。

「ここはもっと違うな」みたいに際限なく描き続けられるので、完全に自分が納得いく作品が完成しないんですよね。そこらへんは難しいところなんですが、これからもずっと山の絵を描き続けていくと思います。

SAKAE

SAKAE

51歳からカルチャースクールに20年以上通い、絵を学び始め、日本清興美術協会や日本山岳画協会にも所属する。リアルさにこだわらず、自分の思った色を使って作品を制作。自身の持ち味を大切にしながら、山の絵を描き続けている。

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