Interview

絵を描くことが心の栄養|美術館巡りから始まった画家人生

絵を観る側から、描き手側になった「たんぽぽ母さん」さん。旅先や日常で美しいと感じた風景や、心動かされた物などを油絵で描かれています。
どのような経験や想いから、描かれているのか。たんぽぽ母さんさんにお話を伺いました。

絵に興味を持ったのは友人がきっかけ

ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。

元々美術館巡りが好きだったんですが、ある時、自分も絵を描いてみたいなと思ったのがきっかけですね。近所に美大があって、学生さんたちが大きなキャンバスを持ち歩いているのを見た時に、「どんな絵を描くんだろう」と思ったこともひとつの要因かもしれません。

美術館巡りを始めたのは、仲のいい友人の影響だったんです。とても絵に詳しい人で、話を聞いているうちに一緒に美術館へ行きましょうという流れになって。色々教えてもらいながら、たくさん都内の美術館を回りました。

そこから夫と旅行に行く時も、美術館訪問を1番の目的として旅行先を選ぶようになりました。

ーいつ頃から絵を描かれているのでしょうか。

子供たち2人が独立して少し経った頃、10年ほど前からですね。絵を描きたいと思ったタイミングで、絵画教室に通いだしました。

いざ描こうと思っても揃える道具さえ全く分からないし、まずは行ってみようかなと。「もしつまらなければ辞めたらいいや、とりあえず通おう」って(笑)いい先生に巡り合えて、10年以上経った今も通い続けています。

油絵を選んだのは、美術館で見た絵に油絵が多かったからですね。水彩画も好きなんですが、中学生ぐらいまでしかやってない上に、授業で描く中で自分では「決して上手くない」と思っていて。描いたことのない油絵に挑戦してみました。

ー絵画教室に通い始めるまでは、絵を描いてこられなかったんですね。

学生時代は薬学部で、絵に関わることは何もしていなかったですね。軽音楽部に入って歌を作って歌ったり、幼いころからずっと書道をやっていたりはしたんですが。昔から、受け身でいるのは面白くない、自分で何か表現したいとは思っていた気がします。

元々書道で筆を扱っていた分、絵を描き始める時の抵抗は少なかった気がします。色がつくほうが楽しいと思っていたぐらいですね(笑)

絵を描くことが心の栄養

ー実際に絵を描かれるようになってどうですか?

旅先で感動した風景などを描いていると、描いている時にもう一度その感動を味わえる、ゆっくり辿ることが出来るのが素敵だなと思います。

息子たちにプレゼントでもらったもの、例えば花束などを描いていると、いつまでも嬉しいんですよね。もらった花束自体は枯れてしまっても、絵の中ではいつまでも綺麗に咲き続けてくれて。

実際に母の日にもらった花束を描いた作品

あとは、描いているとわくわくしたり、ざわついていた心が落ち着いたりすることをよく感じます。それは自分にとって大事なことで、絵を描くことが自分の心の栄養になっているのかなと感じています。

ー絵を描くことは、ご自身の心と向き合う手段でもあるんですね。

そうですね。息子たちや親など人物も描くんですが、父が亡くなった時も描きましたね。本当は、描いて出来上がったものを父に見せたいな、という気持ちもありましたけども、自分を慰めるような気持ちで描いていました。

心に栄養という言葉も使いましたけど、気持ちを落ち着かせるような、そういったことは、すごく絵の効用としてあるなと思っています。

絵を描くことで変わった物事の見方

ー絵を描く側になって変わったことはありますか?

絵を描かない頃は、美術館を求めて旅行に行っていたんですが、絵を描くようになってからはモチーフを探しにいくことが多くなりました。「絵にするぞ」という楽しみがあるので、旅行に行ってもこれまでと見る目が変わってますね。

作品名:小さな湖のほとりで

絵画教室の先生にも、「なぜこれを描きたいと思ったのか」を思い出しながら描いてね、と言われます。難しいことをいっぱい仰るんですけども(笑)

それから、自分が絵を描くようになって、絵の見方も変わりましたね。「どうやって描いているんだろう」「どんな色を混ぜてこの色を作っているんだろう」という興味を持って観られるようになりましたし、鑑賞の目も変わったなと思います。

好きな画家たちについて調べてみると、例えばモーリス・ド・ヴラマンクとか、佐伯祐三とかが好きなんですが、佐伯祐三がヴラマンクの影響を強く受けていることを知ったり、こんな絵も描いているんだと知ることが出来たりと、楽しくなってきますね。

ー好きなものを突き詰めていくと、実は繋がっていたんですね。

そうなんです。あとは、絵に詳しい友人は日本画でもなんでも本当に詳しいんですよね。色んなものを観ておいたほうが自分の肥やしになるのではと思って、幅広く観ようとはしています。

先生にも、とにかくたくさん絵を観なさいと言われています。生の絵を観ると、やっぱり絵肌もよくわかり、写真で観るのとはまた違った感動があるので、美術館には行きたくなりますね。

本当は佐伯祐三のようなタッチで描いてみたいとは思いつつ「こんな強い筆の運びはやっぱり出来ない」と、がっくりもくるんですが(笑)自分には自分のやり方しかないなと思って、描いています。

誰かの生活に寄り添える喜び

ー絵を描いていて良かったと思うことはありますか?

家に飾っている私の描いた絵に対して、友人たちから評価をいただけるのも嬉しいなと思っています。

以前、受賞した作品が美術館で一時期展示されていたんですが、その絵を気に入って「買いたい」と言ってくれた人がいたんですよね。売り物ではないのに。他にもいくつか賞はいただいているんですが、そのような申し出を受けたことは初めてで驚きました。

家に置いておいてくださる方がいらっしゃるのは、本当に幸せだなと思いました。お金を払ってでも「欲しい」と言ってくれる人がいるならと、絵を販売するきっかけにもなりましたね。

東京都美術館で展示されていた受賞作(作品名:ふくぎ並木に抱かれて)

ー誰かの生活の一部になれるのは素敵ですね。

そうですね。あとは、夫が会社を定年退職して小説を書いているんですよね。今はそれぞれ創作活動をしているので、お互いの作品を評価し合う、なんてこともしています。

言葉と絵を組み合わせて何か創ろうか、みたいな話もします。また、夫の書いた小説の表紙を描いてほしいと言われたんですが、自信がなくてやめてしまいました(笑)でも、そんなふうに「二人で何か創っていく」っていうことができると嬉しいですね。

息子2人も、長男は沖縄で水中写真家をしていて、次男は映像を作ったり本を出したりと、家中に家族みんなの作品があって、それもとても楽しいですね。

一生懸命描いた絵を最終的に選んでもらえたら良い

ー今後やりたいことはありますか?

誰かと一緒に小さな個展みたいなのが出来たら楽しいだろうな、とは思っていますね。いつ実現出来るかは分かりませんが(笑)

あと、1つ目標としては、公募展などには出し続けていきたいなと思います。そうしないと、なんとなくだらだらと描いていってしまうので。「これに間に合うように1つは仕上げなきゃ」という区切りはつけています。

直近だと、嬉しいことに『第36回上野の森美術館 日本の自然を描く展』で優秀賞、『第39回全国日曜画家コンクール』で銀賞をいただきまして。自分の絵に値札がついて老舗画廊に並ぶのも嬉しいですし、公募展への挑戦はモチベーションアップにも繋がっていて、こういう良い結果には励まされています。

ただ、あまり「賞を取るため」というのは好きではないんですよね。「人と違うこんなことをするぞ」という気持ちもこだわりもないので、自分の中でただ好きな絵を描いて、それが最終的に評価してもらえたら、それで良いなと思います。

たんぽぽ母さん

たんぽぽ母さん

以前から「何かを表現すること」が好きで、友人と美術館巡りをするなかで、自身も絵を描きたいと絵画教室に通い始める。「描きたい」と思う絵を大切に制作するなかで、公募展では様々な賞を受賞。旅先や日常で美しいと感じた風景や、心動かされた物などを、その時の感動をゆっくり辿るように描き続けている。

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