Interview

研究の繰り返しで辿り着いた今|多くの人がやっていないことに挑戦したい

アクリルを用いて、鮮やかな作品を中心に描くbyさん。キャンバス自体を活かした技法など、多くの人がやっていない作品制作に挑戦されています。

どのような経験やこだわりから現在に至るのか。byさんにお話を伺いました。

独学で始めた肖像画

ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。

幼い頃から絵を描くことは好きで、小学生を振り返ると図工の時間とか、自由帳にみんなでドラゴンの絵を描いたり、教科書に落書きしたりする時間もすごく楽しかったことを覚えています。なので元々は明確なきっかけがあったというより、気付いたらずっと描いていた、という感じです。

中学生の頃は、あまり絵を描いていた記憶はないですね。中学校に美術部があったかは覚えていないんですが、みんながスポーツ系に入部する流れで、バスケ部に入部しました。ただ、練習がきつくてほぼ幽霊部員みたいになっていましたね(笑)。

それで部活はもう嫌だなと思ったので、高校生の時はどこにも入部せず、授業が終わったらさっさと帰って宿題とかをやるような日々でした。勉強も忙しかったので、特に個人的に絵を描くことはせず、文化祭でクラスの美術スタッフみたいな仕事を率先してやっていたぐらいですね。

大学は、デザインをやりながらマネジメントや経営も学べるような学科に進学しました。絵も好きだったし、高校生ぐらいの時にバラエティー番組で見かけていたビジネス業界にも興味があったので、丁度いい専攻だなと。

でも実際入ってみると、工業デザインやプロダクトデザインなどの基本を学ぶことがメインだったので、自分にはちょっと違うなと感じましたね。商業的・ビジネス的じゃない、「自分の好きなように描きたい」という想いを持っていた自分にとっては、やりたいことと少しずれていたんです。

ただ、就職に関してはデザイン系にこだわっていなかったので、研究室もデザイン系ではないところでした。芸術は趣味で、生活していくために仕事をするような感じでしたね。

ー仕事と趣味と、完全に割り切られていたんですね。

そうですね。なので、大学生になってからは時間をとって、独学で肖像画を描くようになりました。きっかけは、ミュシャの作品を観て憧れたところからだったと思います。ちょっと曖昧なんですが。

インターネットなどで、顔の比率を調べたり、海外の人とかも含めて色んな人の作品を見たりして。好きな人の作品を真似したり作風を参考にしたりした上で、自分なりに描いていました。

一時期、水墨画での人物画に挑戦していたことがあったんですよね。親しい友人に芸術活動の話をしていた時、水墨画を勧められて。肖像画は特に人の顔の彫りとか、影の具合を描くのが楽しかったんですが、水墨画っていうのは基本的に重ね塗りをしないんです。でも私は風景画があまり得意ではなく、人の顔を描くことがやっぱり好きだったこともあって、そこを上手く描けないかなと研究していました。

当時水墨画で描かれていた肖像画

風景と人物を掛け合わせた何かダイナミックな作品を描こうと思ったんですけど、ちょっと画力が足りなくて。元々顔ばっかり描いていた分、たまに練習する程度だった人体とかは苦手だったんですよね。あとは描いていてあまり楽しくなかったので、ちょっと飽きちゃったなという部分もあり、途中で水墨画を描かなくなりました。

「新しいアイデアで作品を生み出したい」という気持ち

ー今の作風へは、どのように変遷していったのでしょうか。

『バチェロレッテ』に出演されていた杉田陽平さんへ興味を持ったのがきっかけで、抽象画へ移行しました。

杉田さんの自由な作風の作品を見て、芸術の一つに「人と違うような何か新しい作品を作る」というのもあるんだなと。「自分もアイデアを出して、多くの人がやっていないことをやってみようかな」と思ったんですよね。

最初は平面に絵の具を盛って一部を削って、それ自体を版画にしてみようみたいに考えて色々錯誤したんですが、想像以上に上手くいかない。「これじゃダメだな」というので、他に何かないかなと考えて。

単純にキャンバスに絵の具を乗せるのはみんなやっていることだから、キャンバス自体で何かしら出来ないかなと。その時インスピレーションを得たのが、イタリアのルーチョ・フォンタナという画家さんが制作された、ナイフでキャンバスを切り裂いた作品なんですよね。そこから、「何かしら描いた絵をあえて切ってバラバラにして、もう一度木枠にはめたら何かしら面白いものが出来るんじゃないか」と、短冊状に切って平織りする今の形になりました。なぜ平織りになったのかは思い出せないんですが(笑)。

作品名:weaved-canvas-09

初期の頃に1回だけ、「ちゃんと普通の絵を描いたキャンバス」を切って平織りしたんですが、なんかしっくりこなくて。アクリルでボーダーを描いたり、色んな抽象的な模様を描いて試してみて、という感じですね。

今のところはその技法というかやり方で、「どうしたらより綺麗に見せられるか」というのを考えて作品を創っています。

ー研究の繰り返しですね。水墨画やアクリル画以外を試されたことはありますか?

大学生の頃は、ドローイング用のインクを水で薄めて、水彩っぽく塗っていた時期もありましたね。でも、肖像画から離れてインクで塗るようなこともなくなって、発色が鮮やかで安価に手に入りやすく、メディウム※が豊富なアクリル絵の具を使うようになりました。

※メディウム:制作の幅を広げる溶剤。多種多様な種類が存在し、下地に使用したり絵の具と混ぜて質感を変えたりすることができる。

鮮やかな色合いが好きなのと、当時は立体感のある感じが欲しかったのもあって。以前アクリルで立体的な花の作品も描いていたのですが、それはガラス作家のデイル・チフーリという方を参考にしていました。すごく鮮やかで、見てて元気がもらえるような色使いに惹かれるんですよね。

アクリルで描いた立体的な花(作品名:016_flower)

油絵の具は、人から「乾燥にすごく時間がかかる、あれは貴族の遊びだ」と聞いて(笑)。自分は乾かしてすぐ次の筆を入れたいので、待てない性格上合わないなと、全然頭にはなかったです。

制作は自分のペースを大切に

ー絵を描く上でのこだわりはありますか?

最近は作品の出来うんぬんというより、「描いていて楽しいかどうか」というモチベーションを維持することに注力しています。色々試行錯誤していても納得いかないこともあるので、そういう時は無理に創作活動をせず、しばらく離れてみたりとか。そういう部分に気を遣っていますね。

あまり根詰めてやりすぎると、創作活動自体に嫌気がさしてしまうなと最近思い始めたので、自分のペースを守ることを大切にしています。

あとは、旅行先とかで思いがけず「これはすごいな」と思う作品とか風景とかに出会うと、制作活動のモチベーションになりますね。「自分も何かすごいものを創りたいな」という。

最近だと、Instagramで色んな人の作品を見て、そこからインスピレーションというか、ヒントを得た時に描いていますね。あとは逆に仕事が忙しい時とか。そんなことやってる暇ないよっていう時間のない時ほど、描きたくなります。

ー今後挑戦してみたいことがあれば教えてください。

大きい作品作りにも挑戦したいなと思っています。過去に制作したこともあるんですが、サイズが大きくなると平織りって歪みがすごく出るんですよ。歪み自体は元々若干出るんですけど、大きいサイズだと織っていくとだんだん真っ直ぐじゃなくなって、横の帯がU字になってしまって。

それがちょっと想定外というか、ある程度の歪みは想定していたものの、それを超えてきてしまいました。なので、感覚とか引っ張り具合や留める位置とか、大きい作品に関するノウハウの蓄積と技術の向上が今後の課題です。

ただその前に、まだ作品の方向性自体も自分の中では定まっていないので、そこが定まったら大きい作品に挑戦したい、という感じですね。キャンバスにどんな抽象的な絵柄を描けばより綺麗に見えるのか、色使いはどうすれば良いのかとか、そういう方向性が見えてくれば良いなと思います。

それが一つ研究していることで、もう一つが、さっきお話していたアクリルで描く立体的な花の作品で。自分で考えた技法を用いて今新しく制作しているので、平織りで創るキャンバス作品と二つ並行して、理想の形に出来たら良いなと思っています。

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幼少期から絵を描くことが好きで、大学生の頃に出会った画家の作品をきっかけに肖像画を描き始める。その後、キャンバスを活かした作品作りへと移行。研究心が強く、様々な技法で独自の作品を描き続けている。

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