Interview

「今の自分が1番好き」と言える作品作り|言葉に出来ない想いを表現

アクリル絵の具を用いて、心の赴くままに表現し描いていく高尾 美智さん。鮮やかな色で、自身の内側を映し出します。
どのような想いや経験から描かれているのか。高尾 美智さんにお話を伺いました。

「好き」を伸ばしてくれた出会い

ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。

子供の頃から絵を描いてはいたんですが、大きなきっかけになったのは高校生の時ですね。将来デザイン関係に進みたかったので、進路を決めるタイミングで美大受験を決めたんですが、そのためにアトリエに通いだしたのが始まりです。

元々絵は好きだけど、どちらかというと苦手というか。好きで描くんですけど、特別「上手だね」と言われることはなく、美術の評価とかも普通でした。

デザイン系の仕事をしたいと思ったのも、「とにかく何かを作りたい」という気持ちからでしたね。何を作りたいのかは、自分でも分からなかったんですけど(笑)。

子供の頃から「何かを作る仕事」をしたいとは思いつつ、当時は画家として生きていけるなんて全然思ってなくて。「職業的に考えたらデザイナーかな」という感じで、そういう進路を目指しました。

そのタイミングで、ちゃんとデッサンから学ぼうとアトリエに通い出したんですけど、アトリエの先生が素敵な方で。受験に向けて猛特訓というわけではなく、「自分の色や自分の表現」みたいな個性を大事にしてくれる方でした。

あとは、基本的な物の見方というか、デッサンの捉え方を教えてくださったのが、後に絵を描くようになるきっかけになったと思います。

先生の教え方もすごく良くて、「これが良い」「これは悪い」とかじゃなくて、「描くことが好き」というのを伸ばしてくれたというか。絵を描くことに対して、希望を持たせてくれるような先生でしたね。

その後美大には無事合格して、元々1年間だけ通う予定だったアトリエの方は卒業しましたが、個人的には美大の3年間で学んだことより、アトリエで1年間学んだことや言われたことの方が、自分の基礎になって残っています。

ー素敵ですね。アトリエの先生から教わったことで、印象的だったことはありますか?

12色相環みたいな基礎の理論はあるんですけど、その色じゃなくて、「自分が緑や赤だと思う色を作りなさい」ということをよく言われました。人によって見える色は違うので、その「自分の捉えた色」を使って表現した方が良い、と。

あとは、元々「見たものを正確に描く」というのがすごく苦手だったんですが、先生の言葉で、観察すること自体への苦手意識はなくなりました。

デザインをするにあたって、「観察しないと表現というのは広がらない」ということを教えてもらったんですよ。上手いとか下手とかじゃなくて、「観察する目を持つ」ことが大事なんだと。

今で言うと「引き出しを広げる」みたいな感じですね。「視点をたくさん持っておかないと、したい表現が出来ない」というのは、今でも大事にしています。当時自分の周りからは聞かなかったことをたくさん教えてもらったので、大きなターニングポイントでもありました。

作品名:Tide

自分が満足できる人生を生きたい

ー大学卒業後から絵は描かれていたのでしょうか?

普通に就職してる間は、もう仕事をこなすので精一杯でしたね。時々絵を描いてはいたんですが、気力がなくて創作活動はほとんど出来なかったです。

就職先はデザイン系ではなく、美大関係の方から紹介してもらった建設関係の会社だったんですけど、働いてみたら最初にイメージしていたのと全然違う仕事内容で。直接的にデザインは関係ない仕事でしたし、未熟な自分にとっては、与えられたタスクに対応するだけでいっぱいいっぱいの日々でした。

絵を描くようになったのは、その仕事を辞めてフリーになってしばらくしてからですね。

退職後、契約社員やアルバイトとして働き始めて、四六時中拘束されるような環境からは抜け出せたんですよね。でも、「全然自分が思っているような人生になっていない」と、自分の状況に満足できていないというのはずっとありました。

なので、そこから「何かを作りたい」という初心に帰って、陶芸をやってみたり、立体作品に手を出してみたり。でも最終的には、絵を描いている時が1番自由というか、充実しているなと思って、絵を描くようになりましたね。

あとは、自分の作品を購入してもらえたこともきっかけになりました。「自分の絵を求めてくれる人がいるんだ」という驚きと喜びが忘れられなくて、「じゃあ絵を描いて生きていきたいな」と。まだ、画家以外の仕事もしているんですけどね(笑)。

ー初めから抽象画を描かれていたんでしょうか。

最初は、アクリル絵の具やクレヨン、ペン等を使って動物画とかを描いていました。でも、元々デッサンへ苦手意識を持っているのと、見てイメージしているものに、自分の技量で表現出来ることが追いつかなかったんです。

描いていると「こうじゃないんだ」というのがどうしても出るので、消化不良というか、モヤモヤしてしまっていたんですよね。

それで、「モヤっとしたら衝動的に描く」というのをやり始めてみたんです。自由に絵の具を垂らしたり引っ掻いたり、砂や木くずを混ぜたり。そうしたら、「自分がこうしたい」と思った通りのものが、何も考えてないのに出来上がることに感動して。そこから抽象画を描くようになりました。

なので、「抽象画を描くぞ」と思って描き始めたわけではないんですよね。鬱憤を晴らすじゃないですけど、砂とかを混ぜるのも、子供の頃に砂場で団子を作って遊んでいた感覚に近くて。だけど、それで思い通りの作品が出来上がるので、抽象画ってすごいなと思っています。

自分のことを好きでいられる作品作り

ー楽しみながら制作されているんですね。

そうですね。あとは、私生活で体をちょっと壊したことも、抽象画を始めたことに影響しています。

突発性難聴みたいなものになってしまったんですが、その後の後遺症がすごく不思議な感覚だったんですよ。健常なときと全然違うせいで、ちょっと精神的にも不安定になってしまって。

それを解放する手段として、すごく抽象画に助けてもらいました。後遺症があると、気になってしまって無意識な状態で生活できないんですよ。でも病気なわけじゃないので、治療とかも出来なくて。そういう自分の言葉にできないモヤモヤをぶつける手段としても、すごく救われました。

抽象画を描いていると、自分の内側を解放できるのも気持ち良いですし、今が1番自分のことを好きでいられているなと思っています(笑)。だから、その作品を好きと言ってもらえると本当に嬉しいです。

ー砂や木くずを使って表現しようというのは、どういったきっかけだったのでしょうか。

神社巡りとかが好きなんですけど、神様のイメージを描いてみたいなと思ったのがきっかけですね。神社にお参りしたときに、勝手に神様の抽象的な「光のイメージ」のようなものが思い浮かぶことがあって。いわゆる思いつきなんですが、なんとなく、神社でもらったり購入したりしたお清めの砂や御塩、切麻(きりぬさ)とかを混ぜてみようかなという。

元々は、平面的じゃなくて立体的で、陰影が出るようにしたいなと思っていたんですよね。ただ、質感を出すのによく使われるジェッソ※1とかモデリングペースト※2みたいな下地だけだと、綺麗すぎるなと。もっと表現したいものに近づけられないかなというところで、始めてみました。

※1…ジェッソ:支持体の下地を整え、絵の具の定着力や発色を良くしたり、絵の保存性を高めたりするもの。
※2…モデリングペースト:アクリル樹脂100%と大理石の粉末からできたパテ状の下地剤。

神社の神様の荒々しい感じとか、そういうイメージを表現したかったんですよ。自分で勝手に理由付けしているんですけど、神社のものを使った方がより神様に近い感じがするかなという理由で、ゆかりの場所で授かったものを使っています。

心ときめく作品を描きたい

ー影響を受けたアーティストはいらっしゃいますか?

アレックス・カッツさんというアメリカの画家ですね。作風は全然違うんですけど、あの作風や雰囲気がものすごく好きです。

シンプルなのに、ものすごく心惹かれるものがあるんですよ。あんな風に、心を捉えてはなさない絵が描けたら良いなと、気持ち的な影響を受けています。

単純な表現で、こんなに印象的に描けるのがすごいと思うんですよね。私はたくさん描いて重ねていってしまうので、一生真似出来ないだろうなと(笑)。

ただ、自分の作品を見てくれた人が、同じように心惹かれる作品だと思ってくれたら嬉しいなと。制作活動をする上での、一つの憧れになっています。

ー今後やってみたいことはありますか?

作品展をやっていきたいな、とは思っています。神様が本当に好きなので、イメージした作品はライフワーク的に描いているんですよ。それをどんどん集めていって、神様だけの作品展みたいなのをやりたいなと。

作品がたくさん溜まったら、御縁を頂けた場所で、定期的に作品展を開催していけたらと考えています。

高尾 美智

高尾 美智

「何かを作る仕事をしたい」という想いから、アトリエで本格的に絵を学び始める。抽象画と出会い、自身の内側や感じたことを表現する作風へ。誰かの心を動かせるような作品作りを目指し続けている。

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